2000万円パンフ問題について (1)
かしわさんご所望の構成 で書きたかったのですが, 全般的(一般的な)なことが, 思いの外量が多く, かなり時間がかかりそうです. また明確に理解できていない点もあり.
そのため, 今回は2000万円パンフ問題に関することを扱うものとさせてください.
背景
年金制度
現行の年金制度の直接の祖先は, 1942年に施行された労働者年金法です. 福祉目的ではなく戦費調達が目的でした. このときは完全積立方式だったそうです.
戦後, 1985年に中曽根内閣のときに国民年金法をはじめとする改正法が施行されました. これは, 「職域集団ごとに分立していた制度を見直し、全国民共通の基礎年金制度を導入する大改正」するものでした1.
これを原型として, 改修がなされて今日に至る感じです.
審議会
担当大臣の諮問を受け, 内閣としての意思決定 (閣議決定) を行うための報告書を作成します.
概要と実際の流れがどのようなものなのかについては例えば:
- JAWP, 審議会
- 榊原, 栗林; 「2千万円問題」報告受け取り拒否 審議会は何のため?, 朝日新聞デジタル, 2019-06-14.
を参照ください.
JAWPの「委員の人選」の節にもあるように, 審議会のあり方を巡っては昔から批判もあります. 例えば:
利益団体に妨げられたり、国会でうるさく反対されそうな政策案件の調整を、率先して行うのも官僚の仕事である (略) 予想される反対を回避するための先制手段として多くの審議会が利用される (略) その会の答申は諮問した官僚も委員に加わっているから、官僚の意向を反映するように誘導されるのが普通である。つまり、審議会は、官僚の計画に対して予想される反対をぼかしたり、骨抜きにしたりするのに役立つのだ。2
中曾根の審議会活用を非民主的だと非難するのが、一時流行った。委員の実質審議前に答申内容が決定されているとも批判された。また、審議会の主要メンバー数人が、中曾根の母校の同窓生や、帝国海軍時代の僚友、一時警視庁の警視をしていた頃の旧内務省の同僚であった。たしかにすべて真実である。しかし、これは、従来からの官僚の審議会利用法や人脈活用法と同じであった。3
また審議会にまつわる余談ですが, 前川喜平 元文部科学事務次官が2017年にパージされたころ, 以下のような審議会の議事録が話題になったことを覚えているでしょうか?:
- call_me_nots, 前川喜平氏 発掘された12年前の「笑ってはいけない議事録」が話題に, Not-So-News, 2017-07-26.
良くも悪くも, 一般的な官僚だったんだろうなぁと言う感を持っています.
金融庁と金融審議会の市場ワーキング・グループ
金融庁 (JAWP) (HP) の上部組織は, 内閣府です (財務省かと思っていましたが違いました). 接待汚職事件を受けた中央省庁再編の一連の流れの中で, 大蔵省 (当時. 現 財務省) の民間金融機関にかかる行政機能を分離して作られました.
最新の報告書の冒頭部分によると, 2019年6月3日時点の市場ワーキング・グループ (以下, 市場WG) は, 座長の 神田秀樹 学習院大学大学院 法務研究科教授 以下, 委員が20名, オブザーバーとして 13団体が名前を連ねています. 臨時で2回, 参考人を招いています.
過去分含めて議事録と報告書は, 金融庁サイト内の以下にあります:
- 審議会・研究会等 > 金融審議会 > 市場ワーキング・グループ
年金(2000万円)パンフに関する政治事象の時系列
番号が降ってある6月3日〜6月14日の事象が, 今回の話題に関する範囲になります:
(1) 2019-06-03 同WG 報告書「高齢社会における資産形成・管理」(以下, 2000万円パンフ) の公表. 報道: (日経) 4
- (2) 2019-06-04 麻生 財務 兼副総理, 金融担当大臣 (以下, 麻生大臣), 「100まで生きる前提で退職金って計算してみたことあるか?って。普通の人はないよ多分」, 閣議後の記者会見. (ANN NEWS) 5
- (3) 2019-06-10 麻生 大臣, 「全体を読んでいるわけではない」, 参議院 決算委員会 6. (BuzzFeed) 7
- (4) 同日 安倍 内閣総理大臣 (以下, 安倍総理), (2000万円不足の資産について) 「不正確であり、誤解を与えるものだった」としつつ、「『100年安心が嘘であった』という指摘があったが、そうではない」, 同, [^SGIKIK_0610]. (BuzzFeed), [^BF_0610]
- (5) 2019-06-11 麻生 大臣, 「私というか、担当大臣としては正式な報告書としては受け取らないということを決定したということだけ冒頭に申し上げておきます」, 閣議後記者会見 8. (毎日) 9, 10
- (6) 2019-06-12 自民 森山 国対委員長, 「この報告書はもうなくなっているので、予算委員会にはなじまない」, 記者団に. (NHK) 11
- (7) 2019-06-14 麻生 大臣, 「赤字という言葉が使ってあったりなんかしてありますので(略)私共としては受け取れないということを申し上げた」, 閣議後記者会見 12. (47NEWS) 13
(8) 2019-06-14 金融庁 三井 企画市場局長が謝罪, 衆議院 財務金融委員会. (47NEWS) [^47NEWS_0614]
用語について
今回の話題に関して, 広めに定性的には定義すると, 以下のように考えてます:
- ネトウヨ 悪いことはなんでも中国韓国左翼自民党以外の政党etc.(その他適当なラベル)のせいにして、アベ政治ならどんなことでも擁護する人たちのこと.
- アベ政治 安倍内閣によってなされている (とくに第2次安倍内閣以降の) 政治. またその中で目立つ政治的な動きや言動. 必ずしも安倍総理自身のこととは限らないし, 彼に起因すること・特有のこととも限らない.
- アベガー 「ミンスガー」などと同じ造語法に基づくもので, なんでも安倍総理ないしアベ政治のせいにする人たちのこと.
かしわさんが違う意味で使っていましたら教えてください (アベ政治(もしくはアベガー)の意味の範囲は違いそうだと思ってます).
また通常, 「ネトウヨ」と対になりそうなのは「サヨク」(もしくはブサヨとかはてサとかそれ由来の類語) だと考えています.
かしわさんの場合は, 割と本心で両方アレと思ってもいる とあるように, 「アベガー」を, 「ネトウヨ」に対比して表現しています. 何らかの観点で, 対称性 (方向は違うが, 値は同じ, とか機能的には同等であるとか) を見出しているものと理解しています.
この際の, 観点と尺度(たとえば, 害悪の度合いとかなんとか)についても教えてください.
私の年金(2000万円)パンフに対する意見
2019-06-12に私がツイートした
これ以外のなにものでもない。けど公文書を隠蔽偽造改竄し、統計も捏造して、なおかつそれらの責任者を庇い立て(ただし下っ端は切ったり自殺に追い込んだり)する政府にそれやれったって、無理でしょ。
について, もう少し詳しく以下に述べます.
2000万円パンフの「はじめに」の第1, 2パラグラフによると, 金融庁の審議会WGであることもあり, この審議会の目的は金融商品と金融サービスの提供に関するものであることがわかる.
ところで, テーマは「高齢社会における資産形成・管理」であった. ソリューション (どのような商品・サービスを提供すべきか) を考えるには, 現状の問題点 (高齢者の実生活がどのようなものなのか, また今後どのようになりうるのか) を明確にしておく必要がある. このため審議内容は, 年金制度の問題点にも踏み込むこととなったのだろう (年金制度それ自体は, 金融庁ではなく厚労省の所管).
家計調査は、支出を通じて家計の消費行動を捉えることを目的に作成されている。図の支出は調査対象世帯の支出額の平均値であり、その値は「老後の生活に必要な額」とは関係がない。
と指摘する 14. たしかに, 統計データの定義・性質が問題となることはある. が, 実支出26万円という額は, よく労働組合が出している最低生計費の試算と比較してもそうずれた値でもない. 平均的なモデルでの老後の生活に必要な額とみなして使用しても, 審議上さしつかえないだろう (ただし, データの性質については, 報告書の注で書くべきであった).
賦課方式の制度的問題性は, すでに多くの人々が知っている. なぜなら, 「世代別でX円払い損になる」という主旨の報道は, これまでにも度々なされていることだから. したがって, 市場WGの2000万円パンフの内容は, 取り立てて事実以上に, また現状国民が持つ不安以上に, 不安を煽る内容ではないし, 目新しい内容でもない.
次に, 政府が云々のくだりについて. これは本当は全般的なことと絡めて述べたかったのですが, 長くなりそうかつ時間がかかりそう. なので今回は, 指摘する理由についてだけを, かいつまんで.
いま 内閣) 15 を構成しているのは他でもない彼らだからです. ここでいう「彼ら」というのは野党議員ではなく, 今その職についてる人たちだからということです. 言うまでもありませんが, 「野党が」正式な手続きとして報告書を受け取ったり, 「野党が」報告書の受け取りを拒否したりすることは, できませんし, ありえません.
かしわさんによる2000万円パンフに関するアベガー事象と, それに対する質問
以下ではこれら3つのツイートを本話題についてのものとして扱います:
2019−06−14 にかしわさんがツイート
いくつか私の中で明確にできていない点があるので教えてください.
- 3つのツイート全体としては, かしわさんには「年金問題の, とくに解決するということにフォーカスしている」ということが根底にある, と理解しました. 合ってますでしょうか?
これは, 具体的には国会審議のどのようなやり取りから, 見えるでしょうか?
という状況で、政局材料にしてしまうあたり、野党は『解決よりもアベから政権奪取ありき』と見えてしまっている
これは, このRTでしょうか?
『報告書を隠蔽! アベ独裁!』という主旨の主張(まさゃんもRTしているような)
2019-06-05に私がRT
昭和の大日本帝国もナチスドイツもスターリン時代のソ連もそうですが、強権的な権力構造がある程度完成すると、指導者は国民に対して居丈高に振る舞い始め、さらなる我慢と奉仕と犠牲を国民に強要することで、なぜか国民の支持がさらに強化される現象が生じたように思います。 https://twitter.com/mas__yamazaki/status/1136137146341871616
しかしまあ、年金足りなくなるから2000万くらい貯めとけよって偉そうに言い放っちゃう奴が財務大臣兼副首相やってる政権の支持率が6割近いってんだから、つくづくオメデタイ国だよ。どうにもならないよね。 https://twitter.com/KazuhiroSoda/status/1136119298135592963
また, 6/3〜13の間の私のRTで, かしわさんが「アベガー」に当たると判断するものが他にもありましたら教えてください.
政局材料云々ですが, 一般論としてはわかる面もあると思っていまして:
昭和初期に政党政治が混迷したのは、与党の政権運営が行き詰まると天皇 (の威を借りた元老) が野党第一党に政権を移す、という〈憲政の常道〉と呼ばれた特殊なしきたりが元凶だった。与党内で首相が交代するのでは選挙で選ばれていない政権となるので、選挙で二番目に票を得ている野党第一党に渡すのが正しいという考え方である。そのため、野党は自分たちが政権を握ろうと、議会では政権運営の行き詰まりだけを狙うことになる。与党も常に〈玉砕主義〉で議会に望み、妥協の成立しない、足の引っ張り合いの泥仕合だけが繰り返され、議会の本来の機能である〈認知バイアス〉の修正が行われなくなってしまった。16
こういうことですよね. 「諸外国と比べると日本の首相はコロコロ変わりすぎ」というのは報道などでも度々指摘されるところです. またそもそも 解散違憲論 17, 18 というのもあると聞きます.
とすると, 任期のある 大統領制 19 の方が優れているのでしょうか. 大統領制では行政機関の独立性も比較的高いそうです (このメカニズム, 解散違憲論については, 私はまだ理解できておらず勉強中です).
今回のやり取りに関しておわび
この最初のかしわさんのツイートは, とくに前段については, ネトウヨ()の内部論理を推察しているものだと理解してました. その推察の具体的内容をきいたものが, 私の最初のリプの「どういう道理なん?」です.
なので, このリプというのは, ネトウヨの内部論理を客観的に例示したものだと思っていたんですね. これに対し, 認識はかしわさんと同じですという意味で「ぼくの観察してきたのと大体合ってるね」と答えたのでした.
ところがそうではなく:
私がネトウヨの内部論理の例示と解釈していたリプは, かしわさん自身の意見(もしくはネトウヨの内部論理の内, かしわさんが同意している部分)だったんですね. この場合, 「観察」というのは適当ではないです. かしわさんが指摘している通り普通は使わないと, 私も思います.
まとめると, 「ぼくの観察してきたのと大体合ってるね」という私の言語表現は, 前者のコンテキストをC1, 後者をC2とすると, 意味内容が:
- C1: 認識は同じです
- C2: あなたはネトウヨ()と同じです
となり全く異なります. 念の為私のtwilogも確認してみましたが, 過去C2のような用法で使ったことはありませんでした.
さてそうであったとしても, C1, C2 どちらの文脈であっても, 私の2つ目のリプは 断定となります. 2個めまでのツイートで断定した理由は, 聞いても答えてくれないだろうと思っていたからです (この点について意見を交換するのも、好きではないというか、興味がない).
通常, 私はこういう言い方は使いませんし, 悪いことだと思っています. とくに, 説明する役割にあるならば「断定 (論拠なし)」は, 禁じ手であると考えてます (菅官房長官語はだめだろというのは, これが理由です).
おわび申し上げますと同時に, 今回応えていただいたことに感謝いたします.
References.
- 東京新聞, 麻生氏、発言ぶれぶれ 内容評価→「不適切」→不安打ち消しに, 2019-06-15.
- 毎日新聞, 老後2000万円報告書 野党、「受け取り拒否」で麻生氏を追及 与党内でも疑問視, 2019-06-19.
- 毎日新聞, 金融庁「老後最大3000万円必要」独自試算 WGに4月提示, 2019-06-18.
- NHK, 老後2000万円報告書「質問への答弁控える」政府 閣議決定, 2019-06-18.
NHK, 伊吹元衆院議長 「2000万円報告書は受け取るべきだった」, 2019-06-20.
一方で、伊吹氏は「政府は、『年金は制度として破綻しない』と言っているのであって、『年金で老後の生活をすべて守る』とは、1度も言っていない。野党が参議院選挙の話題にしようとしているが、断固粉砕しなければならない」と述べました。
YOSHIKAWA, Kei; 枝野代表「年金不安に向き合っていない」と安倍首相を批判(党首討論・発言詳報), BuzzFeed News, 2019-06-19.
mechpencil, よく読むといろいろおかしい「極東ブログ」の年金記事, hatenablog, 2018-06-19.
- 老後2000万円不足の真犯人 年金10兆円を散財した自民党と官僚80年史.
-
人生100年時代、2000万円が不足 金融庁が報告書, 日本経済新聞, 2019-06-03.↩
-
ANN NEWS, 退職後2000万円不足も 麻生大臣 資産形成考えて, 2019-06-04.↩
-
YOSHIKAWA, Kei; 「老後に2000万円不足」の報告書、麻生財務相「全体は読んでない」, BuzzFeed News, 2019-06-10.↩
-
麻生 副総理 兼 財務大臣 兼 内閣府特命担当大臣 閣議後記者会見の概要, 2019-06-11.↩
-
田中龍作, 麻生大臣、自分で頼んでおきながら 「2千万貯金」報告書の受取り拒否, 2019-06-11. “金融庁の事務方は、報告書になる直前の最終報告書案を大臣にブリーフィングしていた。こうした事実も金融庁が認めた”↩
-
NHK, 老後2000万円「報告書はもうなくなった」自民 森山国対委員長, 2019-06-12.↩
-
財務省, 麻生副総理兼財務大臣兼内閣府特命担当大臣閣議後記者会見の概要, 2019-06-14.↩
-
太田清, 金融庁、誰に対して「配慮欠いた」? 老後報告書「謝罪」に大きな反響、「政府こそ悪い」, 47News, 2019-06-14.↩
-
飯田泰之, 「老後に2000万円不足」騒動、金融庁の欺瞞とマスコミの大間違い こんな説明をしていて大丈夫か…?, 2019-06-12.↩
-
管賀江留郎, 『道徳感情はなぜ人を誤らせるのか 冤罪、虐殺、正しい心』, 洋泉社, p. 483, 2018-08-28.↩
-
小口幸人, 解散が国益に反し、違憲で不当である理由と選挙, 南山法律事務所, 2017-09-28.↩
あけましておめでとうございました
- Web上で無料で読めるIT業界史の資料を新たに見つけた。まとめに追加しよう……:
- 藤原博文, 『コの業界の掟』, http://karetta.jp/book-cover/okite
- いいツイートがあった。
告知です。「統治を創造する」シンポジウムを開きます(1/23 PM6:00〜、無料) | ikedahayato.blog - URL
踏ん切りがついた思いだ。
反・反原発派の政治的バイアス
池田信夫氏による、最新のエントリ("原子力の悲劇", http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51748817.html) の反原発派の政治的バイアスを取り除くための精力的な活動には、敬意を表したい。
しかしながら、文脈を無視したり、恣意的に歪曲したり、引用を捏造するのは、よくないでしょう。最後から2つめのパラグラフです。括弧でくくっているから引用なのだろうけどリンク先のpdfに、「北朝鮮にも核武装の権利がある」という文言はありません:
核燃料が兵器にも転用できることは事実であり、石破茂氏もいうように、核武装を憲法が禁じているわけでもない。しかし日本が核武装することは現実的にありえないし、すでに核兵器をつくるに十分な技術もプルトニウムも持っているので、原発を止めても核兵器の抑止にはならない。むしろ危険なのは、「北朝鮮にも核武装の権利がある」と主張する小出裕章氏のような反原発派である。
よしんば、括弧内は引用ではなく(小出裕章氏のpdfの)主張の要約であるとしましょう。そうであるならば、それをきちんと明示的に導いてあげないといけません。これでは反・反原発派にも、政治的バイアスがあるという誹りを免れないです。
攻撃的なのは池田信夫Blogのひとつの味なのかもしれませんが、少し勇み足がすぎるのではないでしょうか?まぁ、前述のエントリの目的は、書籍の紹介なのかもしれませんが……。ちょっと気になった次第です。
10円はどこに行った?―複式簿記を使って考えてみた―
はじめに
こんなものがTLに流れてきたので、考えてみました:
“3人で100円ずつ出し合って250円の品を買う。おつりの50円を10円ずつもらい、余りの20円は募金。100円出して10円戻ってきたから出費は90円、3人で270円。募金した20円を足して290円。残る10円はどこ? #どうしても理解できない”
https://twitter.com/#!/hiyoco_sama/status/102807273524568065
出費は、「3人で270円」。これはいい。大丈夫だ。問題ない。
しかし、
- 出費270円の内訳は、品物250円と募金20円なのである。だから、270円にさらに20円足してしまうのはおかしい(290円というのは、無意味な数字)
- 逆に言うと、上記状況では、実質的には270円分の大きさのトランザクション(取引)しか、行っていない
- 300円と出費270円との差額30円は、そもそも出していないのと等価
なのである。
これらを把握できないことが、10円はどこに行った?と、おかしく感じてしまう原因である。
複式簿記で考えてみる
簡単のため、以下の定式化を行う:
- 3人をまとめて考えるために、彼/彼女ら3人による組合を仮定する
- 会計期間を組合設立から解散までとする
このとき、会計期間における冒頭の会計事象のジャーナル(仕訳)を、考える。
ジャーナル
(1) 3人で100円ずつ出資し、組合を設立した
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 300 | 出資金 300 |
(2) 組合は、300円を支払い、250円の品物を購入し、50円のお釣りを得た
借方 | 貸方 |
---|---|
品物 250 | 現金 300 |
現金 50 |
(3) 組合は、20円の募金を行った
借方 | 貸方 |
---|---|
募金 20 | 現金 20 |
(4) 組合は、解散するために、出資金(残額の30円)を各人に払い戻した
借方 | 貸方 |
---|---|
出資金 30 | 現金 30 |
アカウント
上記ジャーナルをアカウント(勘定口座)ごとに見てみよう(総勘定元帳)。本エントリでのアカウントは、 {現金, 品物, 出資金, 募金} の4つである。それぞれの会計属性は:
- 現金:アセット(資産)
- 品物:アセット(資産)
- 出資金:ネット・アセット(純資産(資本))
- 募金:コスト(費用)
とする(負債と収益は今回は無し)。
資産と費用は、左の欄(借方)で増加を表し、右の欄(貸方)では減少を表す。純資産は、その逆で左の欄で減少・右の欄で増加を示す。すると:
現金 | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
(1)にて 300 | (2)にて 300 | |
(2)にて 50 | (3)にて 20 | |
(4)にて 30 |
品物 | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
(2)にて 250 |
出資金 | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
(4)にて 30 | (1)にて 300 |
募金 | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
(3)にて 20 |
のようになる(見難いけど、Tフォームだと思ってください)。
T/B
アカウントにまとめた結果から、残高を求めてみよう(Trial Balance 残高試算表)。
借方残高 | 借方合計 | 勘定科目 | 貸方合計 | 貸方残高 |
---|---|---|---|---|
0 | 350 | 現金 | 350 | 0 |
250 | 250 | 品物 | 0 | |
0 | 30 | 出資金 | 300 | 270 |
20 | 20 | 募金 | 0 | |
270 | 650 | 650 | 270 |
I/S
I/S(Income Statement 損益計算書; P/Lともいう)は、フロー(テンポラリな財のインプット(収益)とアウトプット(費用))を集計したものを示す。
また、
((収益 − 費用)>0)?利益:損失
である。
アカウントの章において、募金は費用(すなわち、一時的な出費)とみなしている。このため:
I/S | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
募金 20 | 当期純損失* 20 |
となる。収益は、特に無いので、当期純損失 20が貸方に来ることになる。
B/S
B/S(Balance Sheet 貸借対照表)は、I/Sとは反対に、ストック(会計期間による価値の増減がない・もしくは少ないもの)を集計するものである。これは、本エントリの内容では、現金・品物・出資金で、構成される。
すなわち:
B/S | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
現金 0 | ||
品物 250 | 出資金 270 | |
当期純損失* 20 |
である。
左借方と右貸方の差額270-250=20円(*当期純損失)は、I/Sの損失の額と等しい。これは、フローによって、ストックが削られ(て減少し)たということである。
また出資金の額は、270円となっている。会計期間内に組合の設立と解散を行ったため、会計期間トータルでは、各人90円ずつ出して、出費を行ったこととなる。
まとめ
- 各人は90円ずつ、合計270円を出費(出資)した(B/Sより)
- 20円は、募金した(I/Sより)
- 250円は、品物を購入した(B/Sより)
注:組合の出資金や、募金というのは、会計上特殊な扱いがあるかもしれません。本エントリでの各会計属性は、説明のための便宜と捉えて頂きますようお願いします。また、なにかご指摘などございましたら、コメントやトラックバックなどでどうぞ。