10円はどこに行った?―複式簿記を使って考えてみた―
はじめに
こんなものがTLに流れてきたので、考えてみました:
“3人で100円ずつ出し合って250円の品を買う。おつりの50円を10円ずつもらい、余りの20円は募金。100円出して10円戻ってきたから出費は90円、3人で270円。募金した20円を足して290円。残る10円はどこ? #どうしても理解できない”
https://twitter.com/#!/hiyoco_sama/status/102807273524568065
出費は、「3人で270円」。これはいい。大丈夫だ。問題ない。
しかし、
- 出費270円の内訳は、品物250円と募金20円なのである。だから、270円にさらに20円足してしまうのはおかしい(290円というのは、無意味な数字)
- 逆に言うと、上記状況では、実質的には270円分の大きさのトランザクション(取引)しか、行っていない
- 300円と出費270円との差額30円は、そもそも出していないのと等価
なのである。
これらを把握できないことが、10円はどこに行った?と、おかしく感じてしまう原因である。
複式簿記で考えてみる
簡単のため、以下の定式化を行う:
- 3人をまとめて考えるために、彼/彼女ら3人による組合を仮定する
- 会計期間を組合設立から解散までとする
このとき、会計期間における冒頭の会計事象のジャーナル(仕訳)を、考える。
ジャーナル
(1) 3人で100円ずつ出資し、組合を設立した
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 300 | 出資金 300 |
(2) 組合は、300円を支払い、250円の品物を購入し、50円のお釣りを得た
借方 | 貸方 |
---|---|
品物 250 | 現金 300 |
現金 50 |
(3) 組合は、20円の募金を行った
借方 | 貸方 |
---|---|
募金 20 | 現金 20 |
(4) 組合は、解散するために、出資金(残額の30円)を各人に払い戻した
借方 | 貸方 |
---|---|
出資金 30 | 現金 30 |
アカウント
上記ジャーナルをアカウント(勘定口座)ごとに見てみよう(総勘定元帳)。本エントリでのアカウントは、 {現金, 品物, 出資金, 募金} の4つである。それぞれの会計属性は:
- 現金:アセット(資産)
- 品物:アセット(資産)
- 出資金:ネット・アセット(純資産(資本))
- 募金:コスト(費用)
とする(負債と収益は今回は無し)。
資産と費用は、左の欄(借方)で増加を表し、右の欄(貸方)では減少を表す。純資産は、その逆で左の欄で減少・右の欄で増加を示す。すると:
現金 | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
(1)にて 300 | (2)にて 300 | |
(2)にて 50 | (3)にて 20 | |
(4)にて 30 |
品物 | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
(2)にて 250 |
出資金 | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
(4)にて 30 | (1)にて 300 |
募金 | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
(3)にて 20 |
のようになる(見難いけど、Tフォームだと思ってください)。
T/B
アカウントにまとめた結果から、残高を求めてみよう(Trial Balance 残高試算表)。
借方残高 | 借方合計 | 勘定科目 | 貸方合計 | 貸方残高 |
---|---|---|---|---|
0 | 350 | 現金 | 350 | 0 |
250 | 250 | 品物 | 0 | |
0 | 30 | 出資金 | 300 | 270 |
20 | 20 | 募金 | 0 | |
270 | 650 | 650 | 270 |
I/S
I/S(Income Statement 損益計算書; P/Lともいう)は、フロー(テンポラリな財のインプット(収益)とアウトプット(費用))を集計したものを示す。
また、
((収益 − 費用)>0)?利益:損失
である。
アカウントの章において、募金は費用(すなわち、一時的な出費)とみなしている。このため:
I/S | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
募金 20 | 当期純損失* 20 |
となる。収益は、特に無いので、当期純損失 20が貸方に来ることになる。
B/S
B/S(Balance Sheet 貸借対照表)は、I/Sとは反対に、ストック(会計期間による価値の増減がない・もしくは少ないもの)を集計するものである。これは、本エントリの内容では、現金・品物・出資金で、構成される。
すなわち:
B/S | ||
---|---|---|
借方 | 貸方 | |
現金 0 | ||
品物 250 | 出資金 270 | |
当期純損失* 20 |
である。
左借方と右貸方の差額270-250=20円(*当期純損失)は、I/Sの損失の額と等しい。これは、フローによって、ストックが削られ(て減少し)たということである。
また出資金の額は、270円となっている。会計期間内に組合の設立と解散を行ったため、会計期間トータルでは、各人90円ずつ出して、出費を行ったこととなる。
まとめ
- 各人は90円ずつ、合計270円を出費(出資)した(B/Sより)
- 20円は、募金した(I/Sより)
- 250円は、品物を購入した(B/Sより)
注:組合の出資金や、募金というのは、会計上特殊な扱いがあるかもしれません。本エントリでの各会計属性は、説明のための便宜と捉えて頂きますようお願いします。また、なにかご指摘などございましたら、コメントやトラックバックなどでどうぞ。